わたしのいぬ



いぬの小鉄は当時いたスタッフがくれたの。

その当時わたしの家にはもう一匹、気難しいいぬのわんたって子がいたから飼えないよってずっと断っていたんだけど、ある朝とうとう連れてこられて、出勤したわたしの机の下にこっそりと置かれていた。
プレゼントというには押し付けがましくて、でも逢った途端どうしようもないような愛おしい気持ちになってしまって、わんたが怒るだろうに連れて帰った。

それからずっと一緒に車で通勤して、腕に寄っかかって運転した気になったし、お客さんに撫でくりまわされて転がったときもあったし、写真を撮られすぎてカメラと携帯が嫌いになったし、迷ってきたトイプードルのもんちゃんっていう女性と子供をつくってお父さんになった。最初はいやだったろうけどたくさんのねことも暮らし、お客さんには相変わらず愛想を振りまいて、見た目で気に入らないひとにはでっかい声で吠え、おかげでびっくりしたわたしは前に停まっていた車にハイラックスサーフをごちんとぶつけて保険の等級が下がったりした。

てんかんもちだったけどいつの間にか治ってほとんどを健康に過ごし、人生の終盤にクッシング症を患って、スムースだったのに天パになって、階段が登れなくなってお散歩はゆっくり派になって、ドッグフードを食べなくなって、ときおりねこのえさをねだって、さいごの2ヶ月は無塩バターを塗ったパンしか食べない日、豚肉しゃぶしゃぶだけの日、鶏のささみだけがいい日、手羽元を煮たやつ、牛の焼き肉しか食べたくない日を過ごして、うんちを出すために自主的に歩き回って、できるだけかいぬしにはわがままを言って困らせてやって、それでみんなが仕事にいったのを見届けて寝てそのままずっと起きなかった。

16年間。ちょうどわたしが桶川スポーツランドを継いでもがいていて苦しかった頃、癒やしてくれた小鉄。なんだかまだ目の端にちょこちょこ歩いている気がして、現実感がないよ。


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